2010年10月11日

【捏造小説】宇宙の片隅で

半熟P様の「宇宙の片隅で(sm10632158)」元ネタ小説です。
♂マスター+KAITOで若干腐向けっぽいかも。

なお、毎度のお約束的に掲載にあたり原曲の製作者の半熟P様には許可をいただいております。
小説の内容自体は、元ネタの曲、動画、P様とは一切関係ない個人が勝手に妄想で書いているものですので、その辺はご理解のほどよろしくお願いいたします。


本文は続きからどうぞ。
== 宇宙の片隅で ==



 僕のマスターは歌と星が好きだ。
 部屋の中にはDTMの機材と天体望遠鏡が仲良く同居している。
 音と光。まるで似つかないように見えるものを、マスターは「同じ」だという。光も音も空気の中を泳ぐ波長だからだ、と。言われて見ると、そうかもと思う。
 僕は、ボーカロイドだ。機械の身体を持っている。歌唱が専門分野のアンドロイドだ。言ってしまえば、高価なDTM機材。部屋の隅に整然と並ぶスピーカーやキーボード、ギター、アンプの類と同類。言葉を喋ればある程度人間に近い思考回路も持っている、やたらとやかましい道具だ。
 マスターは人間だ。機材の使用者だ。つまり僕の持ち主だ。
 マスターは歌と星が好きだけど、僕は歌だけが好きだ。歌うことを目的に作られているのだから、それも当然のこと。だけど、ある程度の情緒を持っている僕は「興味」を持つことによって多少独自の嗜好を身につける。
 甘い匂いが好ましく感じる。特にバニラの匂いが好きだ。マスターがアイスを食べている時は、ずっと隣で正座して深呼吸している。もしもアンドロイドに物を食べる機能がつく日が来たら、僕は真っ先にアイスを食べてみたいと思う。
 マスターが好きなものは僕も好きになりたい。だから僕は、マスターがいない時にはこっそりとマスターの部屋から星座の図鑑を持ってきて読んだりしている。別に隠しているわけじゃないけれど、マスターが一緒にいる時は、できるだけマスターからもらえる歌のことにかかりきりになっていたいのだ。興味対象の第一位が歌なのは、絶対不動なのだから。
 今日はマスターが遅くなる日のはずだった。僕はいつも通り、マスターの部屋から持ち出してきた星座の図鑑を眺めていた。そろそろ、オリオン座がよく見えるようになる頃。
 ガチャ、と聴きなれた物音がした。玄関の鍵が外れる音。
「……え?」
 今日は金曜日。金曜日のマスターはいつも忙しい。土日が休みなので、金曜日に仕事を残すと土日に休日出勤する羽目になるから。
 だけど、廊下を渡ってリビングに顔を出したその人が、マスター以外の誰かのはずはなくて。
「あ……おかえりなさい。早い、ですね?」
 悪いことをしていたような気分になって、僕は図鑑を隠すように抱え込む……けれど、すぐにマスターから引っぺがされた。
「何、お前、星に興味があるの?」
「た、たまたま、です!」
「何がどうたまたまなんだ」
「だ、だって、その、マスターの部屋にいっぱい本があるから」
「そりゃ、好きだからな」
 マスターは、へらっと笑った。笑ったまま、脱ぎかけていた上着をまた羽織る。
「お前も、上着着て来いよ」
「どうしてですか?」
「せっかく早く帰ったから、いいところ連れて行ってやる」
 わけもわからないまま、僕は頷いた。普段、僕はあまり外出することはない。僕はマスターと一緒じゃないと外出ができないのだ。アンドロイドが好き勝手に外をうろついて、事故にあったり故障したりしては、補償問題に関わる。だから基本的に、保護者同伴の義務がある。マスターは普段仕事だし、僕のために時間をとってくれる時は家で歌を作っていることが多かったから、こうやって二人ででかけるのは本当に久し振りだった。
 外に出て、並んで歩く。道行く人が僕の鮮やかな青い髪を見て振り返るのも、今日は気分が良かった。久し振りの外出が本当にうれしかったからだ。
「前に一緒にスピーカーを買いにいった時以来ですね」
「そうだなぁ」
「で、結局どうしてこんな早く帰れたんですか?」
「今日来るはずだった仕事の資料がトラブルで届かなかったんだ。仕事あがったりだよ。代わりに明日休日出勤な」
「なるほど。お疲れ様です」
 そんな風に言葉を交わしながら、暮れなずむ街を歩く。近くの駅から電車に乗って二駅、駅前の通りから少しそれた道を高台に向かって徒歩十五分。小奇麗な公園の一角に、ドーム型の建物があった。
「何ですか、ここ」
「プラネタリウムだ」
 それがどういう場所なのか、知っていた。丸い天幕に星の映像などを流す建物だ。
「中で声を出すなよ。私語厳禁だ」
 知ってはいたけれども初めて見る物だらけで呆然とする僕に、マスターが買ったチケットを差し出す。
 中に入る。暗い。辛うじて座席がわかる程度の光度しかない。習慣で視界を調整しようとしきりに瞬きをする僕に、マスターが「そのままでいろ」と耳打ちした。
 丁度始めるところだったらしい。人の出入りが終わって数分もしない内に、出入り口の扉がしまり、辺りは一層暗くなった。そして、白いことしかわからなかった半球の天幕一面に、星図が浮かび上がる。
「うわ……」
 思わず声をあげて、マスターに軽く肘で小突かれた。
 北極星。北斗七星。おおぐま座、こぐま座……。少し暗い、ケフェウス座のガーネット・スター。
 星図と実際の天文写真が、解説とともにくるくる回る。街中じゃ見られなかった、オリオン座も。
 解説が終わって部屋が薄明かりに包まれても、僕はしばらく固まっていた。
「おい、もう出るぞ」
「マスター」
「ん? どうした」
「宇宙って大きいですね」
「そうだな。俺達なんてアリどころか、プランクトンみたいなもんだ」
 マスターが、僕の手を引く。
「プラネタリウムなんかじゃ見られないものを見せてやるよ。これがここの売りなんだ」
 誘われるまま、僕はマスターと一緒に数々の天文写真と解説パネルが並ぶ展示室を抜けて、天文観測台へのエレベータに乗る。平日なので、それほど人はいなかった。だから僕らはすぐに目的の物にたどり着いた。
 マスターの家にあるものも充分立派な値打ち物のはずなんだけど、比べ物にならないほど、とても巨大な天体望遠鏡。
「平日のこの時間帯だけ、一般でも観覧できるんだよ。行こう行こうと思ってたんだよな。丁度良かった」
 マスターが笑いながら空を見上げた。磨き上げられたガラスドーム。そこからまっすぐに、一面の星空をとらえる望遠鏡。
「ほら、のぞいてみろよ」
 マスターに急かされて、僕はおそるおそる覗き込む。
 目の前に迫る、銀河。数百億の星の輝き。
「地球まで届くのに何千年も何万年もかかってる光だよ。中には、もうとっくの昔に消えてしまっている星もあるかもしれない。そう考えると、すげーだろ?」
「すごい……です」
 それは、僕が無数の音の渦から正解の音を拾い上げて、ソレを電子の記号にして自分の中に刻み込む行為にも似ていた。光と音。違うものだけど、同じ、空気中を泳ぐ波長。
 光の渦に目眩のような気分を味わって、僕は望遠鏡から目を離す。ゆっくり瞬きして、現実の視界へとピントを合わせたその瞬間に、星空を一筋の光が駆けた。
「あ、流れ星!」
「願え!三回言え!」
「ええあああ、マスターと一緒にいられますようにいられ……消えました」
「恥ずかしい願い言うな!」
 振り向くと、マスターが慌てて周りを見回していた。幸いというべきなのか、丁度他の観覧者はいなかった。そんなに恥ずかしかっただろうか。僕にとってはマスターと一緒にいて、歌を歌い続けることの他に願いなんてないのだけど。
「三回言えませんでした」
「まぁ、気にすんな。流れ星は綺麗だから、三回言わなくたって願いくらいきいてくれるよ」
「……そうですね」
 何の根拠もない。そもそも、流れ星が願いを叶えてくれるという事自体が荒唐無稽な都市伝説。
 だけど、僕は何だか本当に、願いが叶うような気になっていた。
 だって、あまりに宇宙は広い。この広大な宇宙の中で地球は、数多にある銀河系の中のほんの一つ、そのほんのひとつである太陽系の中でたまたま生物が住み着いた惑星で、僕らが生きている日本は、その惑星の中の一つの国。国のなかにある一つの町。町の中に住む、一人と一体の機械。
 どれほどの確率があったら、僕はマスターと出会えたんだろう。確率を計算しようと思ったけど、あまりにも途方もなさ過ぎて、とても数字では処理できそうになかった。
「帰るぞー」
「はい!」
 帰り道に、人はまばらだった。平日の夜遅くにプラネタリウム。向かう人も、帰る人もそう多くはない。
 辺りに人がいないのをいい事に、僕はこの前教えてもらったばかりの歌を口ずさんでいた。そういえば、これは星の歌だ。
 ――ひとすじ流れた流星に願いをこめる あなたとの出会いまるで奇跡のよう
 マスターが書いたこの歌詞の意味が、今の僕にはよく理解できる。
 本当に、まるで奇跡のよう。
 いつしか、マスターも僕と一緒に口ずさんでいた。
 すっかり夜の色に染まった空には星が無数にまたたく。
 僕らは、丘の下にきらめく人間たちが作った地上の星を目指して歩く。
 空と地上、それぞれの輝きに、僕らの歌声がそっと溶けて消えた。


END.
posted by さわのじ。 at 01:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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