2010年09月07日

【ついった突発企画2】次元の彼方で再会を

お久し振りです、生きてました。まだ兄さんが熱いです。気温も熱過ぎてへばってました。

ついったーのTLを眺めていたら、「KAITOが機械の身体を手に入れて3次元化する頃には、マスターがデータ化されて2次元入り」みたいな話題で盛り上がっていたので、思いつきで書いてみたSSです。
本気で思いつきで書いたので、色々ツッコミどころあるかもしれないけど、気にしない!


では続きからどぞー。


 ――申請がようやく通った。
 ボーカロイドという合成音声ソフトに、人工知能を付加できるアクティベーションが開発されてから数年。今では、さらに人工知能をヒューマノイドのインターフェイスに移植して、人間と共に生活することができるようになっていた。
 とはいえ、元々が古いソフトウェアだけに、現行ソフトウェアと併用するのとはワケが違う。権利だの、アップデートだの、セットアップだの……と様々な面での調整に調整を重ね、ようやく申請した通りのインターフェイスが完成し、晴れて僕は一体のヒューマノイドとして、人間の主に触れることができる身体を得た。
 さっそく起動する。かすかな駆動音と共に、瞼があがる。暗かった世界が広がっていく。
 不思議な気持ちだった。データ上で見ている画像の世界とは何もかも違って見えた。身体を動かして見る。腕も足も、想像しているよりもずっと重かった。この重みが、この世界に存在している証だ。
「あの、僕のマスターは……」
 待ちきれずに、係りの人に聞いた。この人がマスターじゃないのはわかっていた。起動完了するまで隣でずっと音声でナビゲートしてくれていたから。
 白衣を着た係りの人は、眉を寄せる。多分、これは困っている時の顔だ。そう判断する条件が揃っている。
「その、申し上げにくいことなんだけどね」
 精一杯、言葉を濁しながら彼は言った。
「君のマスターは、一年前に亡くなられている。本人の強い希望と、遺族の方の了承が得られたので、ヒューマノイドの調整は続けていたのだが」
 僕は、どんな表情をしていたのだろう。今、自分がどんな姿になっているかはわかっている。頭の中に自分の姿に関する情報はきちんとあったから。だけど、どんな表情に変わるかなんて、想像もつかなかった。
 想像はしたことがある。自分が笑うとどんな顔か。泣くと、どんな風になるのかとか。
 それよりもたくさん、想像していたことがある。画面ごしではなく、すぐ隣にマスターがいるというのはどういうことだろう。触れるとどんな感触がするのだろう。
 今、自分が座っている硬い椅子の、滑らかだけど冷たい手触りとはきっと比べようもなく……。
「それは、どういうことでしょう」
 それだけ答えるのが、今の僕の処理能力の限界だった。
「後で、順をおって説明するけれども、ひとまず君のマスターに会いに行こうか」
「会えるんですか? ……でも、亡くなったのでは?」
「まぁ、会えばわかると思うよ」
 係りの人の表情は……多分、苦笑、と呼ばれるもの。そう、僕の身体は視覚情報から認識している。
 不慣れな重い身体を動かして、僕は立ち上がり、係りの人に促されるままに歩き出した。

『KAITO』
 僕の名前が、画面に表示された。それと同時に、スピーカーから女性の声が聞こえた。
 それが僕のマスターの声だと、言われなくてもわかった。登録したマスターの声紋と一致していたからだ。
『本当に、ちゃんとヒューマノイドになれたんだね、KAITO』
 嬉しそうに笑う、画面の中の女の人。
 それが僕のマスター。一年前に亡くなった人。
『一緒に歩きたかったのに、ごめんね、私が先にこんなことになっちゃって』
 マスターは、少し前までの僕がそうだったように、画面の向こう側にしか存在しなくなっていた。
 丁度、マスターが亡くなる少し前から試験的に運用されはじめたそのサービスは、自分の記憶情報や声、顔だち、表情などの情報を元に作成された人工知能を保存するというものだった。
『でも、KAITOに出会えて嬉しいよ』
 死期を悟っていたマスターは、僕にあったらそう言うように、自分の分身となる存在に託したのだろう。
 僕はわかっている。マスターも、きっとわかっていた。
 これは、マスターがマスターそっくりに作った、分身。本物じゃない。本物そっくりの偽物。人工知能が成長すれば、段々マスターからは別の存在になっていくだろう。
 あるいは、マスターはそれを生まれ変わった自分として見たのかもしれない。
 だけど僕は。
「僕は……貴方に触れたかった」
『うん』
「貴方のために歌いたかった。すぐそばで聞いてほしかった。貴方の声も聞きたかった」
『私もだよ』
「スピーカーを通した音声じゃなくて、貴方の耳で、直接僕の声を聴いて欲しかったんです」
 もう願いは叶わない。
 だけど、身体を与えられたことが無意味だとは思わなかった。いや、思いたくなかった。
 マスターが自身の存在をデータとしてでも残しておいてくれたことは純粋に嬉しかった。
「僕は……貴方のボーカロイドです」
『うん。そうだよ。ねぇ、KAITO、歌って?』
「いくらでも。貴方に教えていただいた歌の全てを」
 僕は、その気になればきっと、データの存在に戻ることもできた。
 もしかすると、データの存在となった僕とマスターは、あるいは望んでいたとおりに隣で触れ合って歌を重ねることもできたのかもしれない。
 だけど、僕はそうしなかった。マスターも、自身の分身に、そういう言葉を吐かせることはしなかった。
「マスターの触れられなかったものに触れて、マスターの聞くことができなかったものを聞きます。僕が、マスターのできない全てをかわりにやります」
 身体をもらう前にデータの上でマスターと交わしたあらゆる会話ログを元に、導き出した僕の答え。
「だからマスターは、もう少しだけそこで待っていてください」
 触れ合うことは、しばらく我慢する。
 身体を持って、触れ合って、声を重ねる。
 それがどういうことかを理解したら、データの海で会いましょう。
 僕が知らなかった全てを知って、貴方が知らなかった全てを知った頃に。
『うん、これからよろしくね、KAITO』
 画面の中で微笑む彼女に、僕はモニター越しに額を当てる。
「はい、よろしくお願いします」

 冷たいモニターごしに、僕は何故か感じるはずのない温もりを覚えていた。

END.
posted by さわのじ。 at 01:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。