2010年02月16日

【エセSF】ネバーランド/エバーライズ(4)

兄誕祭連載、ネバエバ4話です。まさかの1日に1話更新。
ネバエバって響き的に「ねばねば」って感じですよね。だから私の中でこの小説のあだ名が「納豆」です。(※本編の内容に全く関係ございません)

兄さんが迷走することしきりですが、目指せハッピーエンド。

それでは、続きから本編へー。




act4.僕の歌は君の、《it'a your song》

 派手な演出をしようと爆竹を使ってみたんだけど、やり過ぎだったようだ。
 そんな愚痴をこぼしたのはアカイトのほうだった。どうやら耳の機能がそれでいかれてしまったらしい。
 どうにも治し辛いところがいかれたようで、仕方がないからパーツを交換するんだと言っていた。

 思えばその頃から少しずつ、彼はおかしくなっていったのだ。
 そして、一ヵ月後。彼は姿を消した。
 天国に行くために――。



「うー……ん?」
 カイトは薄く瞼を開け、何度かゆっくりと瞬きをする。頭がぼんやりとして、上手く働かない。視界もやけに狭い。どういうことだろうか。
「あ、起きた!」
 気づくとハツネとミクの同じ顔がカイトを覗き込んでいた。それを書き分けるように、黄色い双子とお嬢様が割り込んできた。三人とも、まさに涙目という様相だ。リンは顔に絆創膏を貼り付けている。
「カイト兄、大丈夫? あ、大丈夫じゃないんだった! え、ええと、痛いところは?」
 リンがあたふたと質問を並べ立て。
「ホントごめん、俺が出来心であんなところに行ったから……!」
 レンが枕元で額をこすりつけんばかりに頭を下げまくっていて。
「カイト死んじゃいやだぁぁぁ!」
 お嬢様がわんわんと声を上げて泣いていた。
 カイトはしばらくぼんやりと辺りを見回す。何気に、この劇場にいる歌い手仲間は全員揃っていた。天井や周りの風景から考えるに、ここは病院で、自分は今ベッドに寝かされている状態らしい。
「……とりあえず、状況説明して」
 一番正しく把握していそうなメイコに話を振った。彼女は肩をすくめて涙目の三人を引っぺがす。
「足場が壊れたのに巻き込まれて、リンを庇ったあんたに極厚の鉄板がヒットしたのね」
「そうなんだ……。うん、よく生きてた」
「で、その時に折れ曲がった柵の鉄棒があんたの目に当たって、ざっくり刺さっちゃって」
「うわぁ、痛い! 聞くだけで痛い!」
「今は神経回線切ってあるから別に痛くないでしょ?」
「精神的に痛いよ!」
「他の怪我はパーツ交換や応急処置だけでどうにかなる範囲だったから良かったんだけど、目のパーツだけあんたが使っているのがなくって。取り寄せになるからしばらく片目しか使えないけど、我慢しなさいって話」
 カイトは自分の顔に手を当てる。確かに顔の右半分が包帯で覆われていた。視界が狭くなっている原因はこれだ。
「リンは無事だった?」
「ちょっと足を怪我したけど、すぐに治してもらえたよ。それよりもカイト兄の方がずっと重傷だよ! 心配したんだから! あたし庇ってなかったら、ケガなんてしなかったでしょ!」
「あはは、女の子の顔に傷がつく方が一大事だよ」
「そういう問題じゃなーい! 目玉ひとつ亡くなっている方が一大事でしょ!!」
 お嬢様と同じくらい子供っぽくわんわんと泣き出したリンを、ミクとハツネが頭を撫でて慰める。レンはひたすら申し訳なさそうにうつむいていた。
「レンも、お嬢様を庇ってくれてありがとう。ケガしてない?」
「俺とお嬢は大丈夫」
「なら良かった」
 それだけ確認すると、まだぼんやりとしたままの頭の芯が、休眠を欲するように意識をぶつりぶつりと途切れさせはじめる。
「何かすごーく……眠いんだけど」
「眼球パーツを片方だけ外した状態だから、慣れるまでは過負荷が続いて身体機能が鈍るって言ってたわよ」
「あー、なるほど。つまり、オーバーヒート中なわけだな、僕は」
 そういえば、体が無性に熱い。夏の日差しが強い日に、冷却が上手く行かなくて目を回している時の感覚に似ている。
「寝ていた方がいいわよ。無理すると、それこそ煙噴くかもしれないし」
「そうだね……。寝ておくかな」
 言っているそばから、カイトの意識はゆっくりと闇へと引きずり込まれていた。
 何度かの明滅を繰り返して、視覚情報が遮断される。休眠司令が行きわたって、周囲の音も遮断される。
 音も光もない世界に落ちたその先、ゼロとイチでできた情報の海まで沈んでいく。

 沈んで、沈んで、深みに至り、澱む。
 記憶情報の断片が繋がりあって半端に復元され、意味を成さない視覚情報を音声情報を生成する。それが、ヒトの見る夢。

 そのはずだった。
 今まで気づかなかったのだ。
 断片であっても情報は情報であり、それは記憶として記録された真実であることに。
 支離滅裂なシャッフルで構成されていた擬似情報も、きちんとした順番に並び替えさえすれば、正しい記憶になるのだと。

 その時まで、カイトは何も気づかずにいたのだ。



「お嬢様、それは、ちょっと困ります」
 眉を八の字にして首を傾けたカイトに、お嬢様は蜂蜜色の髪を指でいじりまわしながらふくれっ面を作った。
「カイトと一緒がいいんだもん!」
「だから、それは無理なんです」
「私が眠るまで子守唄を歌うのがカイトの役目でしょう!」
 彼女は腰の辺りにしがみついて完全にレジスタンスと化したお嬢様に、カイトは頭を抱えた。カイトとしてもできることならずっとそばにいたいのだ。ただし、今は状況がそれを許さない。
 どうやったらわかってもらえるのか、考えても妙案は思い浮かばない。正直に言えば、カイトとしても引き離されることに完全に納得したわけではないから、余計にだ。
 どうしよう、と。
 少しうなだれたところで、カイトは唐突に、我に返った。
 ――あれ? お嬢様、って……。
 カイトの知る『お嬢様』の髪は蜂蜜色などしていない。
 それなら、近しい間柄としか思えないこのしがみついている少女は誰なのか。
 ――ああ、そうか。これは夢だ。
 この子は、カイトが何度か見たあの夢に出てきた少女なのだ。情報の海に沈み、こうやって眠った時に不意に浮かび上がる断片でしかなくなった。それくらい遠い過去に、恐らく出会っていたのであろう少女。
「わがままを言ってはいけません」
 カイトはゆっくりとしがみつくお嬢様をひきはがしにかかる。
「最終期限までにはあと半日ありますから、それまでは一緒です」
 夢の中のカイトは、現在のカイトが覚えていないことを、一生懸命彼女に語っている。本当に良い家柄の『お嬢様』なのだろう。上品なワンピースに身を包んでいる。ワンピースは赤とピンクで、カイトはここで女の子といえば赤かピンクだというイメージをつけていたのかと、一人納得した。
 彼女は今、カイトの腕の中で大きな瞳に涙をめいっぱいためている。
「人間とアンドロイドは、眠るところが少し違うんですよ。目が覚めたらまた一緒にいられます」
 ――アンドロイド?
 カイトにはよく意味がわからなかった。アンドロイドというものは大抵、単調な思考しかできない元始的なタイプのロボットを指す。機械化されているヒトと外見的にそう変わらない物もあるが、根本的には別の物だ。
「僕はお嬢様のためにあるんです。目を覚ます時には必ずお側にいるようにしますよ」
 それなのに――過去の自分の口ぶりはまるで『自分がアンドロイドである』かのようだ。
「落ち着くまでここにいますよ。そうだ、お嬢様の好きな歌を歌いましょう」
 壁沿いに据えられた硬い椅子に座って、少女を膝の上に乗せて歌を歌う。
 伸びやかなメロディーは、どこか懐かしい響きだった。これが過去の記憶なら当然だ。歌のデータを保存しているライブラリを深く潜れば、この曲の譜面が刻まれたデータがあるんだろう。
 知らないようで知っているその歌を聴いていた少女が、顔をあげる。もう泣いてはいなかった。
「それじゃないの、歌って」
「何を歌いますか」
「カイトの好きな歌でいいよ」
「お嬢様がお好きな歌が、僕の好きな歌ですよ。前にも言いましたよね」
 できるだけ穏やかな声で諭すように言い聞かせるカイトを、彼女はにらみつけた。
「うそつき」
 一度は泣き止んだはずの彼女の瞳に、再びあふれ出た粒がカイトのコートに落ちる。
 膝から降りて、向かい合わせに立って、叫ぶ。
「うそつき、私の好きな歌なんて、覚えていないくせに!」
「お嬢様……?」
「私は、カイトが歌いやすそうな曲を選んでいただけ。別に、その歌が特別に好きだったわけじゃないもの」
 彼女の言葉に、カイトは困惑した。夢の中のカイトと、夢を見ている方のカイトと、過去の混乱と現在の混乱がないまぜになる。
 これは初めてこの少女の夢を見た時に、聞いたセリフだ。
 ――僕は、何て答えた? 彼女は何て……?
 答えは、すぐに出た。
「私は……カイトが歌う歌なら、何でも好きだっただけだもん!」
 それが、彼女の答えだった。彼女に好きな歌なんてなかった。好きな歌声が、好きな存在が、そこにあっただけだ。
「……そうですね。ごめんなさい。僕の歌は、貴方の――」
 カイトの答えは最後まで聞けなかった。けたたましい警報が鳴り響き、緊急事態を告げる放送が部屋中に響き渡る。
 その時になって、カイトは今まで自分がどこにいたのかを把握した。
 壁を縦横無尽に這うパイプと、それにつながっている黒々とした得体の知れない大きなカプセル。スイッチが無数についた操作盤が入口近くにある。それは『今のカイト』も見たことがある光景だった。『お嬢様』を拾ったあの場所だ。
『予定よりもかなり早く危険区域に達しています』
 混乱の悲鳴と怒号の中で、カイトの耳が緊急放送の焦った声を受信する。
『落ち着いてください! 退避シェルター内の各人間は早急にカプセルに入ってください!』
「お嬢様、早く! もう無理です!」
「嫌よ!」
「わがままを言っている場合じゃないんです! 僕らと一緒に海に沈むおつもりですか!」
 勢いに任せてまくしたてたところで、カイトはしまった、とばかりに手で口をふさぐ。じっとりと睨み付けてくる少女に、彼は言い訳を考えるようにあたふたと辺りを見回す。各所でカプセルのふたが空いて、服を脱いだ人間たちが押し込められていく。
 その中で、少女は微動だにせず立っていた。
「私、カイトが思っているほど子供じゃないの。アンドロイドは何の救いもなく沈んでいくのに、私たちは生き延びるの? 生き延びれるなら、家族を見捨ててもいいの?」
「お嬢様、僕らだって、ただ海に流されるわけじゃないんです。きちんと水の入り込まない部屋に保管されるはずですから、全て終わった後に人間の皆さんが助けに来てくださいますから」
「嘘よ。人間たちはカプセルから出た後のことなんて、なーんも考えてないわ。パパも使用人も、カイトのことは諦めろっていうの。同じ型のアンドロイドくらいいくらでも、って。そんなの、私のカイトじゃないもん!」
 ぺたん、と床に座り込んだ彼女が声をあげて泣き出した。
 カイトは何と声をかけていいかわからず、自分も膝をついて、彼女の半身を抱きしめる。
 再び警報が響き渡った。
『接近中。あと一時間で、衝突します。あと十分でカプセルが起動します。避難がまだの方は急いでください!』
 放送の声を聞きながら、カイトはもう一度少女を引き離した。
「お嬢様、時間がありません」
「嫌」
「僕はお嬢様のものです。お嬢様のためだけに歌を歌います。お嬢様がいなければ、意味がありません。生き残って、そしてピアノをまた弾いてください。お嬢様が僕のためにピアノを覚えるといってくださった時、僕は本当に嬉しかったんです、だから――」
「ねえ、カイト。貴方が私のために歌うというなら、もう二度と会えなくなった時、貴方は誰のために歌うの?」
「お嬢様、お願いですから」
「答えて。人間が目を覚ますのは多分、ずっと先の話。でもアンドロイドはそうじゃないんでしょう? 私がいなくなっても、それでも歌えるの?」
 ――その答えを、多分僕は知っている。
 答えにつまる『過去のカイト』に変わって、『今のカイト』がそう思う。
 知っているけど、認めたくない。理解したくない。このまま意識を閉ざしてしまいたい。早くこの夢から逃れたい。
 いや、違う。これは夢じゃない。記憶だ。情報の断片が無作為に拾い上げられて形成したにしては、意味が通り過ぎている。違う。夢だ。夢に決まっている。
 ぐるぐると、カイトの頭の中では情報の波が渦巻いている。
 そして、何度目かの警報と、放送が響く。
『タイムオーバーです! カプセルを閉鎖してください!』
 途端、部屋中から湧き上がる悲鳴と怒声。間に合わなかった人々の嘆きの声。
 目の前にいる少女は、悲嘆にくれることなど忘れたかのように、目元の涙をぬぐって立ち上がる。
「ねぇ、歌を歌って」
 いつも通りに、微笑んで囁いた。
「私が眠るまで、歌ってね」

 ぶつん、と。そこで場面はホワイトアウトした。
 その後のことは、よくわからない。
 思い出せないのではない、実際にその後からしばらくの部分が、意図的に削除された形跡がある。もしかすると少女が何かしら、そういう処置を加えたのかもしれないし、あまりにも酷い心的外傷を負うとプログラムが該当部分を削除することがあるから、そのせいなのかもしれない。
 『アンドロイド』は、そういう風にできている。『人間』とは違ってそういう部分だけは、極めて都合よくできているから。
 だからカイトは、彼女のことを記憶情報の奥深くに沈めた。恐らくはプログラムに刻まれた本能によって。それを覚えていたら、動けなくなることを察知して。
 あの日――地球に隕石が降った。地震と大洪水によってほとんどの国が海底に沈んだ。人間たちがシェルターのコールドスリープカプセルに押し込められたあの時。カプセルのかわりに密閉された部屋に押し込められたアンドロイドは、皮肉なことに人間よりもずっと多くが生き延びてしまったのだろう。何せ、致命的な損傷を負わない限り、電力さえ確保できれば彼らには飲食も睡眠もいらなかったのだから。
 だけど、機械には主が必要だ。主がいなければ、存在意義がない。そういう風にできていた。彼らの自我は人間という存在に頼りきっていた。
 存在を認めてくれる主を世界単位で失った機械たちが、その後どうなったのか――。

 ――僕は、知っている。
 意識が覚醒する。白い天井は、今は闇の中に沈んでいた。夜なのだ。
「思い……だした」
 呟いた声は空々しく、誰もいない部屋に溶けて消えた。

《続く》
posted by さわのじ。 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。