2010年02月14日

【エセSF】ネバーランド/エバーライズ(1)

兄さん誕生祭の季節がやってまいりました。
動画を見つめてほくほくしています。うっかり兄さんを市場でぽちりました。やっちまった! この人ついにやっちまったよ!


まぁ、そういうわけで、兄さんが主人公の長編を誕生日期間いっぱい使って連載します。
特定の曲をイメージしたわけではない、完全にオリジナル捏造SF設定のボカロ小説です。なんだかアカイトとか、亜種っぽい何かがでてきますが、実は亜種っぽいだけで中身はただの兄さんです。多分、ハバネロは嫌い。
別にカップリングがメインの話ではないのですが、設定の都合上でどうしてもカイミク風味とカイメイ(アカイト×メイコ)風味が出てきます。ご了承ください。

曲のイメージでかいているわけではありませんが、有名曲ネタやニコ動ネタがさりげなく仕込まれていることもあります。
前半は若干コメディっぽいですが、後半は怒涛のシリアスになる予定なので、欝展開苦手な方は回避推奨。


ご理解いただいた上で「読んでやるぞ!」という漢前な方は、続きより本編へお進みください。


【ネバーランド/エバーライズ】


 ――その天国は、嘘でできている。

 だから、この嘘もきっと――。


「俺はそろそろ天国に行くつもりなんだ」
 久し振りに会った自分と同じ顔をした彼が、唐突にそんなことを言い出したので、カイトは首をかしげた。
「どうして? 怪我、治ったんじゃなかったのかい?」
「いや、それはちゃんと治したんだけど、もうそろそろいいかな、と思って」
 外見では唯一カイトと違うところである赤い髪の毛をかきあげながら、彼は少し困ったように笑った。
「めーちゃんは何て?」
「うん? 好きにすれば、って」
「そんなあっさり?」
 聞き返してばかりいるカイトに、彼は肩をすくめてみせる。
「まぁ、いつかお前にもわかる時がくるかもしれないよ」
「……そうかな?」
「わからないほうが平和だとは思うけどな」
 そういって、肩をすくめてみせる。
「あんまり長居すると決意が鈍りそうだし、いい加減、もう行くことにするさ」
「そうか。……良い旅を」
「ああ、そちらこそ。歌が聴けなくなるのは寂しいよ」
「それじゃあ」
「それじゃあな」
 まるで、明日また会うかのような挨拶を交わして去っていく――髪を赤くしている以外は、自分と全く同じ背格好と声を持つ彼を見送って、カイトは嘆息をした。
 カイトが着ていた、白い上着のすそを引っ張る手がある。緑色の髪を両サイドで結いあげた、全く同じ顔をした二人の少女が立っている。
「アカイト兄さん、辞めたんだって? 『天国』に行くって、本気なのかな」
「寂しくなるわね。二人ずつデュエットできなくなるわ」
 双子のような姿で語り合う彼女たちが、口々に言う姿を見て、カイトは肩をすくめた。
「そのアカイトってあだ名、最後くらいやめておきなよ。僕と同タイプなら、探せばいるんじゃないかな。彼くらい歌えるかはわからないけど。僕もここで歌い始めたばかりの頃は、聞いちゃいられないような鼻声だったからね」
「あら、そんなこと言ったら私たちだって、酷かったわ」
「言葉になってなかったものね」
 クスクスと。彼女たちは楽しげに笑う。
「でも……私たち『ヒト』はほとんど永久に生きられるのに、わざわざ『天国』に行くのは何でかしら」
 彼女たちのうち一人が不思議そうに呟く。それはカイトにもよくわからない。
 何せ『人間』が細胞が象る血と肉と骨でできていたのは、遠い昔の話だ。今の『ヒト』は、回路と歯車とジェルパックとスプリングと……そういった、代替可能な機械でできているから、死は驚くほど遠い場所にある。どんなに体が傷ついても、記憶回路が無事ならば体を乗り換えることができる。ある程度の傷や病気ならば、体内に入ったナノマシンが修復作業をしてくれるから心配はない。
 しいて言えば、ある程度外見のパターンが決まっているので、改造をしていないデフォルトの状態だと、こうして同じ顔同じ声のヒトが寄り集まることになる辺りが問題ではある。それも、気に入らなければ髪を好きな色に植えかえるなり、パーツを少し変えてもらうなりすればあっさりと別の姿に変われる。
 カイトは生まれてこの方ずっと、デフォルトの姿から変えていない。一度だけ髪を違う色にしてみたことがあったが、どうにもしっくりこなくてすぐに元の色に戻してしまった。
 ともかく、そんな半永久的な存在である『ヒト』にとって『死』とは、主に何らかの要因で人格を形成する回路が復元不可能なほどに破壊されてしまうのを指すわけなのだが。
 それとは別に『天国へ行く』という選択肢がある。
 長く終わりのない人生に疲れた時、虚しさを覚えた時、ヒトは『天国』の門を開く。
 誰の姿も見えない場所に行って、一人ひそやかに全ての機能を停止し、初期化する。そうすることで、ヒトはただの死体になる。つまり――自殺だ。
「何故……か」
 そんなことは、カイトにわかるはずはない。少なくとも、今は『天国へ行く』つもりなど、かけらもないのだから。
「きっと、天国が素晴らしいところだからだよ」
 答えになっていない答えを返すと、同じ姿をした二人の少女は納得いかなさそうに顔を見合わせた。
 カイトも納得はしていない。できれば気が変わって、戻ってきてほしいと思う。
 天国は虚無だ。永遠に動きを止まったその先には、何もあるはずはないのだから。


 『天国』なんて、信じない。
 そう思っていた彼が、本当の意味での“天国”を知るまで。
 これは、そういう物語だ。


act1.天国に一番遠い街《Dead end in the world》

 カイトは、周囲のヒトからは変わり者と呼ばれている。
 生業は歌い手。機械部品によってできているヒトの身体には、タイプによって適正の高い能力がある。カイトの身体は、歌唱や演奏といった音楽の才能に秀でていたので、何の疑いもなくその職についた。週に数回、劇場で楽器を弾いたりコーラスをやったり、時には華美な衣装を着て舞台に立つこともある。
 家事や力仕事、特殊な技術を用いる仕事に秀でた身体に比べれば、得られる職はわずかだけれど、カイトはこの身体を気に入っていた。大枚をはたいてまで乗り換える気はない。
 カイトが変わり者と呼ばれる理由は、単純に、趣味が変わっていたからだ。
「今日はここに潜ってみるかな」
 腰に紐で防水ライトをくくりつけ、上着を脱いで下着だけの姿になると、彼は湖に飛び込んだ。
 ほとんどが金属でできた身体は浮かび上がることはなく、冷たい色に染まった世界に深く深く沈んでいく。やがてたどり着いた水底から、上を見上げる。太陽の光が、揺らめく水面から差し込んで、淡く白いカーテンを作っている。その白い揺らめきの中を、魚の群れが横切っていくのが見えた。
 カイトはこの景色を見るのが好きだ。
 それよりももっと好きなのは『宝探し』だ。
 遠い昔、人間がまだ血と肉の身体で生きていた頃、世界は一度海面の上昇によって滅びかけている。洪水にのみこまれた旧人類の都市は、まだ多くが水の底に沈んだままだ。
 カイトは時々こうやって湖や海に潜って、旧人類の遺跡で変わったものを探すのが趣味だった。
 ちゃんと力仕事が得意で強い耐水性能を持った身体のヒトがサルベージを生業とするのは珍しいことじゃないけれど、仕事でもないのにもぐりたがるヒトはなかなかいない。きちんと防水加工されているといっても、動力部に浸水したら命にかかわる。だから、多くのヒトは水中に長時間いるなんてとんでもないと思っている。
「きれいなのになぁ」
 無茶なことさえしなければ、そうそう派手な浸水なんておこるわけがない。水を飲み込んだって平気だ。些細な可能性を気にして、こんな楽しくて綺麗な世界を見ないでいるのはもったいない。カイトは常々そう思っているが、あんまり理解を得られたことはない。唯一、劇場仲間のミクの一人は、多少カイトの趣味に理解と興味をしめしていて、今度自分ももぐってみたいと呟いていた。
 今日は、ダイビング初心者の彼女を案内するのにぴったりの場所を探すつもりだった。
 いつも潜っては探検しているのは、昔の人間が住んでいたらしい集合住宅の遺跡。長く水中に沈んでいるおかげで、大体の遺跡は水に削られて崩れかけていて、危険だ。
「見て回るのは外側からのだけにした方が無難かなぁ」
 ぼやきながら水草の絡む瓦礫を乗り越えていくと、見慣れない光景が広がっていた。
「なんだこれ……」
 おそらくは遺跡の崩落でできあがっていた湖底の急斜面に、大きな横穴が空いていた。下の方に土砂が沈んでいるから、どうやら浸食で崩れたらしい。この急斜面の下には遺跡があったようで、横穴にライトを当てると部屋らしき空間があるのがわかる。
「未発見の遺跡か」
 安全に綺麗な湖底の風景を楽しめる場所を探す。そんな当初の目的は、新たな探検場所の発見によって、綺麗に覆されてしまった。
 好奇心に抗いきれず、カイトはその横穴がしっかりとしていて、崩落の恐れが薄そうなことを確かめつつ、少しずつ奥に入り込んでいく。
 建物が丸ごと土砂に埋まっているようだった。土砂の重みにつぶれているところも多々あるものの、まだ部屋の形が残っている場所も多い。サルベージ業者に教えたら喜びそうな物件だ。
「これだけ残っているなら、どこかにすごいものが眠っていそうだなぁ」
 階段の跡を降りたり上ったり、まだ通り抜けできる廊下を進んでいるうちに、カイトはずいぶんと深くまでやってきていた。たどってきた道筋はきちんと把握している。とはいえ、少し長居しすぎたかもしれない。
 そろそろ戻ろうかと、これで最後のつもりで階段を上ると、ライトの光が水面のゆらめきを映し出した。
 ――水面?
 この湖は、決して浅くはない。この遺跡は完全に土砂に埋もれていたはずだから、たとえ湖面より上に出たのだとしても、光が差していないところを見ると出口ということはなさそうだ。
 崩落を免れた部屋が、この先にある。
 気づいたら、危険かもしれないなんて考えは、消し飛んでいた。その身体を動かしていたのは、何だったのだろう。好奇心か――あるいは、本能だったのか。
 その水面の向こう側へと、水の抵抗をもどかしく思いながら駆け上がる。
 ライトが、暗闇の中を照らし出した。そこは、真四角の部屋だった。壁には無数のパイプと基盤でびっしりと埋め尽くされ、床には――。
「何だ……これ」
 ライトをあててみる。黒い、カプセルのような形をした金属質の物体が、所狭しと並んでいる。どれも、ヒト一人が横になれるくらいの大きさがあった。若干、気味が悪い。
「どういう用途の部屋なんだ?」
 部屋中に張り巡らされたパイプと、それにつながっているカプセル。スイッチが無数についた操作盤らしきものが、そこかしこにある。何かの機械なのはわかるけれども、初めて見る物で、さっぱり正体がわからない。
 もしかしたら、これはすごい発見じゃないだろうか。カイトは改めてライトで部屋中をくまなく照らして、観察する。コードを避けるようにして歩き、ぐるりと一周して戻ってきた時。
「うわっ」
 足元のパイプにひっかかり、よろめく。壁に手をついた弾みに、何かのスイッチをカチリと押してしまった。慌てて飛びのいて、思わず身構えたが――。
「……まぁ、普通に考えたら何もないよな」
 何せ、旧人類の遺跡だ。遺跡にある機械のほとんどはすでに機能を停止しているものだし、稀に動くものがあったとしても、電力の供給がなければ沈黙するのみだ。
 と、思っていたのに。
 ヴヴヴヴヴ、と、くぐもった駆動音が響き渡った。
「え!? ええぇっ!?」
 思わず素っ頓狂な悲鳴を上げたカイトは、慌てて出口を確認する。逃げるか、逃げないか。ためらっている内に、どんどん音は大きくなっていく。
『――プ、カイ――、ウ――――カイシ』
 聞き取れないくらいかすかに、機械音声が何かを告げる。途端、大地震かというような揺れが部屋を襲う。
「……っ!」
 よろめき、ライトを取り落として、カイトはなす術もなく床にはいつくばった。
 ゴウン、と分厚い鉄の板を殴りつけたような音と共に、天井が割れた。
 本当に割れたのだ。綺麗に、真っ二つに。
 カイトの目には、土と引き裂かれた芝生の残骸が怒涛のごとく部屋に雪崩落ちるのが見えた。幸いというべきか、天井は観音開きをしたようで、落ちてきた土の量は大したことはなかった。スライド式だったら、生き埋めになったかもしれない。
「地上に繋がってたのか……」
 土をかぶった濡れ髪が泥で黒く染まっていることにうんざりとしながら、カイトは部屋の隅から這い出した。まさか部屋の機能が生きているなんて思わなかった。
「ホント、何に使う部屋なんだ?」
 首を傾げながら辺りを見回すと、白い水蒸気のようなものが足元に漂っていることに気がつく。どこかひんやりとしていた。アラームらしき音もしている。
 アラームの音をたどって土の山を越えていくと、埋まることを免れたカプセルのひとつが、白い煙を大量に吐き出している真っ最中だった。
 ――なんか、触れたらまずい気がする……。
 みなかったことにして、帰ろうか。天井が開いたことでわかったのだが、よく見ると壁には梯子が取り付けられていた。あれを上れば地上に出られる。
 今日は戻って、サルベージ業者にここを紹介しよう。発掘は業者の仕事だし、謎の解明は学者がする仕事なんだから。
 さすがに好奇心よりも危機感の方が勝ったカイトは、踵を返す。
 一瞬だけ、煙を吐き続けるカプセルを振り返り――。

 ――恐らく二百年ぶりくらいに、彼は『人間』と再会した。


《続く》
posted by さわのじ。 at 23:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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