2010年01月04日

【♂マス+カイト】正月ネタSSを書く試み。

気づいたらもう新年です。あけましておめでとうございました。
絶賛一人暮らしで、実家は遠方、年末年始も普通に仕事な私は、もそもそとコンビニのそばで年越しをして、手抜きな雑煮を作って一人で食べました。世知辛い。

某期間限定宴会場でさらした正月ネタSSをサルベージ。
♂マス+カイトのだらだら正月的日常です。
しかし、私の書く兄さんは、男マスターと組ませると急にふてぶてしい性格の子になるなぁ……。









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野郎二人の正月日記


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「もーういーくつねーるーとぉー、おーしょーおーがーつー♪」
「カイト、もう正月だ。次の正月は三六四日後だ」
 雑煮の中のもちをこねこねと行儀悪く練っているカイトに、俺は迷わずつっこみをいれた。
 最早元旦ですらない。三が日だからかろうじて正月といってもいい期間ではあるが……。
「だって、これ以外にお正月の歌、知らないですよ」
「それはお正月前の歌だ。それと、もちをこねるな」
「マスター、トルコアイスが食べたいです」
「うるさい、日本製ボーカロイドなんだから、大人しく餅食ってろ。ていうか、機械のくせにモノ食うんじゃねぇ」
「別にモノを食べなくても充電はできますが、というかその方が整備は簡単なのも事実ではありますけど、感情プログラムの情操教育に飲み食いは重要らしいですよ。まともに歌って欲しいならアイスをください」
「さりげなくアイスの要求をねじこむな!」
 カイトは心底不満そうな顔で、どろどろに溶けた餅をすすっていた。ほとんど泥のようになった雑煮を流し込むようにして食べ終えた彼は、お椀を片付けながら彼は再び口ずさむ。
「あいうぃっしゅーあめりくりすます♪ あいうぃっしゅーあめりくりすます♪ あいうぃっしゅーあめりくりすますえんはっぴーにゅーいやー♪」
「それは確かに新年を祝っている歌だが、どちらかというとクリスマスソングだ!」
「じゃあ、お正月の歌でも教えてください。どうせ、正月休みでヒマなんでしょう」
 冷蔵庫から溜め込んでいるアイス(トルコアイスではない、スーパーで八十八円のバニラ)をひとつ手にもって戻ってきたカイトは、ボーカロイドらしい要求を俺につきつけてくる。
「正月の歌orトルコアイス。どちらかを提供してください」
「そのバニラで充分だろうが!」
「餅を見ていたらトルコアイスの気分になったんです。無理ならハーゲンダッツかレディボーゲンで妥協します」
「妥協じゃねぇだろ! グレードあがってるだろそれ!」
 全力で止める。こいつはアイスのことになると急に厚かましくなるから油断ができない。普段はぼんやりして、何も考えていなさそうなのに。ああ、そうか。アイス(と一応歌)のことしか考えてないのか。
「だって、僕にとっては初めてのお正月なんですよ。思い出にしたいじゃないですか」
 そういえば、こいつを買ったのは春先のことだったっけ。男の一人暮らし&彼女いない暦も長くなってくると飽き飽きしてきたので、趣味のDTMにも使えるボーカロイドを購入したのだ。女性型を選ばなかったのは、まだ人間の彼女を作ることを諦めていないからである。
 結果、野郎二人暮らしという色気も何もないことになって、おまけにこのボーカロイドときたら時々異常にふてぶてしくて……と、愚痴愚痴と考えても仕方がないことだった。初詣行くかな。彼女できますようにってお願いしてくるかな。
「まぁ、お前の言い分はわかった。トルコアイスは関係ねぇけど、初めての正月なのは事実だもんな」
「トルコアイスは重要です。それはともかく、せっかくだからお正月の歌が知りたいんですよ。クリスマスの時は教えてくれたじゃないですか」
 確かに教えた。ただ、それはカイトのためではなくて、実家にいる姪にせがまれてこいつをクリスマスパーティーで歌わせることになったからだった。カイトはにこにこ上機嫌だったが、実は完全にこっちの都合だったのだ。
 まさか頼まれていないのに童謡なんて歌わせるかよ、とも言えない。微妙な罪悪感。
「あー、あれだ。あの曲あるだろ、とーしのはーじめーのたーめーしーとてー♪ってやつ。あれは正月の歌だぞ!」
「ああ、それなら昨日新年特番で聴きました! 番組用の曲じゃなくて、有名な唱歌なんですね」
「そうだ。そういやあれ、なんてタイトルだったけな」
 唱歌なら、MIDIの打ち込みも簡単だ。俺は簡単、カイトは満足。誰も傷つかない。よし、これでいこう。
 俺は覚えている歌詞を入力して、グーグル様に曲名を尋ねてみたわけだが。
「……マスター、今日って何日でしたっけ」
「……一月三日についさっき変わった」
「……この曲のタイトル『一月一日』なんですね」
「……普通に『正月』とかにしとけよ!!!!」
 ついさっき、やれそれは年越し前の歌だの、それはクリスマスソングだのと文句をつけた手前、一月一日の歌を一月三日に歌えとも言い辛い。ああ、どうりで元旦の特番でしか聞かないはずだよ、この歌!
「今から曲を作るとか……」
「俺はそんなジェバンニじゃねぇ」
 最低でも一ヶ月の製作期間は見てほしい。俺はいたってまじめな社会人だ。そこまでヒマでもない。普通に五日から仕事だ。
 しかし、アイスのへらを口に咥えたカイトが、あからさまにがっかりした顔をしているので、さすがに良心が痛むというか。
「あー、そういえば、お前の誕生日って来月だっけ?」
「あ、そうです。といっても、僕の元になったプログラムソフトの発売日であって、僕の製造日とは無関係なんですけど……」
「わかった、じゃあ、誕生日までに一曲作るから、それで我慢してくれ」
 カイトはきょとんとして、目を丸くする。半開きになった口から、アイスのへらがぽろりと落ちた。
「本当ですか?」
「嘘言ってどうすんだ。いいよ、最近お前の曲も作ってなかったしなぁ」
「それじゃ、お正月の歌も、トルコアイスも我慢します」
「おう。…………って、トルコアイスいいのか!?」
 思わず聞き返してしまった。カイトはじっとりとした半眼でこちらをにらんでいる。
「買ってくれるならもちろん喜んで食べますよ?」
「いや、何か、お前がアイスを諦めるという状況が意外すぎてな」
 何せ、アイスに関するカイトの執着心は見ているこっちがドン引きするくらいのイキオイだ。アイスのためなら地の果てまでも駆けていきそうなくらいである。餅をみてトルコアイスを連想するくらいのアイス脳だ。俺がそう思うのも無理はないと思う。
 カイトは呆れたようにためいきをついて、落としたへらをごみばこに捨て、代わりにスプーンを台所からとってくる。そして、改めて俺に向き直った。
「マスターは僕を何だと思っているんですか」
「うーん? アイス狂?」
「ボー、カ、ロ、イ、ド! ですよっ!」
 若干とけかけて柔らかくなったアイスを口に含み、むすっとした顔で彼はそっぽを向く。
「お正月の歌なんていつでも調べられますし、アイスだっていつでも食べられます」
「俺が教えたり買ってやったりしないと無理だけどな」
「そりゃそうですけど、ボーカロイドなんですから……」
 もう一度、カイトはやれやれという感じで、ためいきをつく。
「自分のためのオリジナル曲をもらうことが、一番嬉しいに決まっているじゃないですか」
 まじめくさった顔でそんなことを言う彼は、確かにアイスをねだる時よりは数倍まじめな顔をしていて、本気なんだということが充分に伝わってきたので。
 俺は、何だか困ってしまった。DTMと言っても、本当に趣味の域で、動画にUPしてもろくに再生数も伸びない底辺なわけだ。
 だけど、そんな俺の本心を見透かしたように、カイトはバニラの甘ったるい匂いを振りまきながら、それと同じくらい甘ったるい顔でふにゃりと笑う。
「しっかりしてください、僕のマスターは貴方なんですから」
「底辺だけどな」
「少なくとも、僕はマスターに不満はないですよ。曲だって好きで歌ってますから。もう少しハーゲンダッツを買ってくださるということありません」
「さりげに不満と要求を通してんじゃねぇか」
「気のせいです」
 さらりと言ってのけ、カイトはバニラアイスの残りに没頭しはじめる。
 全く、この機械は生意気にも時々、バカみたいに率直に俺の背中を押してくれるのだ。恥ずかしくなるような状況も、アイストークで押し流すんだから周到だ。天然でも計算でも、感情プログラムの進化に驚嘆せざるを得ない。まだ一年未満の付き合いなのに、数年来の友人みたいなことを言ってのけるんだから。
 俺は肩をすくめて、DTMのシーケンサーを開く。見慣れたピアノロールが画面を埋める。
「今年も、よろしく」
 パソコン画面には、アイス好きのボーカロイドが片手をあげて答えているのがかすかに映りこんでいた。
posted by さわのじ。 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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