2009年11月20日

【カイミク】こんなものは愛と呼べない

にゃぽで捧げものにしたカイミクSSを、許可とれたのでサルベージ。
こんなタイトルですが、ラブコメ(のつもり)です。
大人の愛を学ぶべく兄さんに迫るミクさんと、天然スルーしようとしてしきれてない兄さんとか、そんな話。
カイミク派を自称しながら、おおむねカップリングにならない(ひいき目に見てもマスカイにしかならない)話しか書いていない気がするので、頑張ってみた。


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こんなものは愛と呼べない


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「お兄ちゃん、愛しているわ」
 ミクが顔を真っ赤にして、握り締めたネギをぷるぷる震わせながらそんなことを言うので、僕はアイスを食べる手を止める。
「……うーんと、ネギと僕だったら、どっちを愛している?」
 ぶったたかれた。ネギなのに大根切りのフォームで。
「酷いよ、ミク……ううっ、ネギが目に染みる……」
「お兄ちゃんのが酷いもん!」
「ええ? 罰ゲームか何かじゃないのかい? 双子あたりにハメられたんじゃ……」
 今度は横殴りのネギアタックだった。
「もう知らないっ!」
 ミクは大またにのしのしと歩いていく。
 僕はネギまみれになった顔を拭きながら呆然とそれを見送り――アイスを床に落としたことに気がついて別の意味で悲鳴を上げた。

 ――ということの顛末をメイコに話すと、彼女はワンカップを片手にげらげらと笑い出した。ああ、昼間だっていうのに、もう完璧にできあがっているよ、この人。
「うん、そういったのか、ミクは。あははははは!」
「めーちゃんの差し金だったのか……」
「誤解よ、誤解。だってミクがさぁ、真顔で『愛』って何ってきくからさぁ」
 メイコの話を聞けば、どうやらマスターが今回用意した新曲は、ミクには少し大人すぎる愛を歌う詞だったようで。それで、メイコやルカに相談していたらしい。
 マスターとしては、見るからに大人の女性なメイコやルカよりも、少女のミクに歌わせた方がギャップがあっていいと考えていたらしいんだけど……。
「子供が背伸びしているようにしかならなかったらしいのよねぇ。それで、マスターがあたしかルカにボーカルを変えるか、コーラスに入れるか、って話をしたらあの子、ヤケになったみたいで」
「わかった……けど、それでどうして僕のところに来るのさ」
 おかげで僕はアイスをひとカップ無駄にしたというのに。
 若干の逆恨みをこめながら呟くと、メイコはまたげらげらとおなかを抱えて笑った。
「変なこと吹き込んではいないわよ。あたしとルカで、『あんたが好きな男の人を思い浮かべて、その人を誘惑して落とすつもりでいきなさい』ってアドバイスしただけ!」
「ゆ……誘惑……」
 そうか、僕は誘惑されていたのか。もしかしてネギも、男が女に花束を用意するような、魅惑のプレゼント的な何かだったんだろうか。
「誘惑っていってもねぇ……。お兄ちゃん、って呼びながら誘惑って言われてもねぇ」
「あら、誘惑される対象に選ばれたことにはノーコメントなの?」
「うちには僕とレンしか男がいないじゃないか。それに、レンはいつもリンと一緒だし。消去法だろ?」
 メイコが爆笑をひっこめて、心底呆れたという風にためいきをついた。
「ダメだわ、こりゃ」
「……何が?」
「いや、何でも。いいの? この家ではあんたしかいなくても、お隣さんにはがくぽもいるんだからね。兄貴じゃ相手にしてもらえないってわかったから、あっちにいってるかもねぇ」
「へ……?」
「誘惑訓練する候補は、あんただけじゃないのよー?」
 僕はお隣のフォルダに住んでいる後輩の存在を思い出す。
 ビジュアル系シンガーの艶ある男声を持ち、十人いれば全員が『美形』と答えるであろう、彼だ。少し時代錯誤なところも、女性からの支持を得ているとか。
 確かに、誘惑したいされたい感じのキャラをしている。擬似恋愛にはいい相手だろうし、きっと僕よりも上手く実践訓練の成果があがるに違いない。
 ……けど、何だろう、この穏やかでない感じは。
「いいのかしら?」
 メイコのにやりとした顔に、僕は冷や汗が背中を伝っていく感触を覚える。
「と……隣に迷惑をかける前に、ミクを連れ戻してくる!」
 僕は踵を返して走り出す。何か後ろでまた爆笑が聴こえたけど、気にしない。

 僕らの家はクリプトンフォルダで、お隣のインターネット社フォルダと共に、ボーカロイドフォルダの中にある。ボーカロイドフォルダは、僕らやお隣にとっては共通の庭みたいなものだ。
 マスターが気をきかせて、ボーカロイドフォルダのアイコンを季節ごとに変えてくれている。雪の結晶を象ったアイコンになっている今は、僕らの庭も薄く雪が積もっていた。アイコンは今日変えたばかりなんだろう。これが今年の初雪だった。
 ミクは、クリプトンフォルダとインターネット社フォルダの間で、ぼんやりと突っ立って舞い降りる白い雪を見上げていた。まだお隣にはいっていなかったんだ。不思議とほっとした気分になりながら、僕は彼女に歩み寄る。
 僕らはプログラムで、この雪もイメージが作り上げた電子の幻だから、寒くはない。寒いと思えば寒くなるだろうけれど。――それでも。
「ミク、風邪を引くよ」
 まるで人間がそうするように、僕はミクに傘を差し出した。
 ミクはふくれっ面で顔をそらす。
「めーちゃんに聞いた。大人っぽい歌なんだってね、今度の新曲」
「どーせ、ミクはまだ子供ですよー、だ」
 ぷりぷりと怒る様子は確かに子供っぽくて、どう頑張っても大人とはいえない。
「ミクはそのままで充分かわいいし、ちょっと背伸びしていても、それがミクの良さなんだから、僕は別にいいと思うんだけどね」
 正直、セクシーなミクなんて想像もつかないし。
 ミクはちらりとこちらを横目で見る。ちょっと機嫌が直ってきただろうか。
「てっきりお隣のがくぽさんのところに行くかと思ってた」
「どうして? がくぽさんは関係ないじゃない」
「うーん、だってほら、がくぽさん、カッコイイでしょ? 僕よりはそういうの向いているかなぁ、とか……」
 それを阻止するために出てきたはずなのに、何でアドバイスしているんだろう。自分でも自分の行動にわけがわからなくなってきた。何だろう、僕はどうしてこんなことを。これじゃ、言い訳しているみたいじゃないか。
 ミクは再びぷうっ、と頬を膨らませた。
「お兄ちゃんにはわかんないもん」
「うん、ごめんね。僕はお兄ちゃんだからさ、ミクのことは無邪気でかわいい妹だって思ってしまうんだ。だからさっきも、てっきり冗談だと思ってその……はは」
「それじゃ……“お兄ちゃん”じゃなければよかったの?」
 くい、とマフラーのすそが引っ張られた。
 真剣なミクの眼差しに、吸い込まれそうになって、僕は思わず後ずさりそうになる。
 だけど、ミクはさらにぐいっとマフラーを引っ張って、僕に顔を近づけた。
「確かに、私じゃ子供っぽくて“愛”なんて呼べないかもしれないけど」
 息が触れ合うほどに近づいた顔。僕はそらすこともできずに、翠色の瞳に釘付けになっていた。
「好きだよ、カイト」
 唇に、柔らかい感触が触れる。
 頭の中が真っ白になった。ええと、今のは、つまり、その――。
 どん、とミクが僕の胸を突き飛ばす。間近だった顔が遠のく。
 突然の告白の時とは比べ物にならないくらい真っ赤な顔をしたミクが、僕に向かって人差し指を突きつけた。
「わ、私だってっ! や、やればっ! でででで、できるんだからっ!」
 ろれつの回らない裏返った声でそうまくしたて。
「後で後悔してもしらないからねっ!」
 どこぞの有名曲かというような捨て台詞を吐き、彼女は脱兎のごとく駆け出した。
 僕は呆然とそれを見送って。
 その場にへたり込んで。
 唇を指でなぞって、真っ白になった頭の中を整理しようとする。
「カイトって……」
 名前を呼ばれた時、不覚にも少しドキリとした。ミクが妹じゃなくて、女性に見えた。
 がくぽのところに行くつもりはなかったって。最初から、ミクは僕だけを見ていた? そんなことを考えそうになる。ただの、曲作りへの実践訓練だって――。
 でも、実践訓練に、キスって必要か? 違うだろ?
 まだ、柔らかい感触が残る唇を、僕は手で覆った。
 何故か、余韻が消え去るのが惜しくなって。

「お兄ちゃん、何で避けるの……」
「べ、別に……」
「マスターからは、例の曲、OKもらいました」
「良かったね」
「で、何で避けるの?」
「ミクこそ、何で正面こないの」
「お兄ちゃんが避けるから」
 僕がソファに腰掛け、そっと近づいてきたミクがソファの背もたれにこしかけ、背中合わせに会話をする。
 あれ以来、僕は何だか恥ずかしいやら気まずいやらで、ミクを避けている。ミクの方はといえば、僕を追い掛け回すものの、やっぱり恥ずかしさはあるのか、正面からは話しかけてこない。
 後ろからこっそりよってきて、僕が振り返ったら自分もくるりと方向転換。
 そんな微妙な距離で数日過ごしている。
「楽しみにしているよ、大人なミクの曲」
 僕はそらぞらしいまでに明るい声でそう言って、アイスのフタを開ける。やっぱり心頭滅却にはアイスに限る。
「ねぇ、マスターが今度は大人な私とお兄ちゃんの曲を作るって言ってるんだけど」
 ……アイス噴いた。ああ、もったいない。
「そ、それは……いけません、その、兄妹の、い、一線っていうか」
 慌てて振り返ると、顔を真っ赤にしたミクがいた。多分、僕も大差ないくらいに赤いんだろう。
「今更何を言ってるの、血の繋がりもないのに」
「あ、あれはその場のイキオイというか……っ!」
「私、イキオイだけであんなことしないもんっ!」
 真っ赤な顔をしたミクが、眉毛を逆八の字に釣り上げる。これじゃ照れているのか怒っているのかわからない。
 ミクがあの時みたいにまた、僕のマフラーの裾をひっぱって、顔を近づける。
 また唇が触れそうになって、僕は慌てて背を反らす。
「確かに私のじゃ“愛”とは呼べないかもしれないけどね、“恋”とは呼ぶと思うのよ、“カイト”」
 真剣な翠の眼差しが、本気を伝えてくる。
 僕は目をそらすこともできなかった。溶け始めたアイスの香りに酔っていたのかもしれない。
「……後で後悔するっていったけど」
「うん」
「後悔する前に本気になれってこと?」
「そう」
「曲のための訓練じゃなかったの?」
「本音と建前は一致することもあります」
 困った。
 何が困ったって、このままされるがままにミクに引っ張られてしまいそうなのが。
 だけど、僕にだって少しはプライドがある。
「僕だってやればできるよ?」
「うん」
「後で後悔するかもよ」
 ミクが笑った。妹の顔とも大人の女の顔とも違う、初恋を実らせたばかりの初々しい少女の顔で。
「後悔なんてしないもん。やればできるんでしょ?」
 完敗した。どうやったって勝てない。
 素直に認めよう、僕はミクに恋をしたんだ。ネギを持って告白された時からなのか、雪降る庭でのキスからなのか、それよりもずっと前なのかはわからないけれど。
「確かに、こんなものは愛とは呼べないな」
「……だから、恋だって言ってるじゃない!」
「うん。兄妹愛とは呼べなくなったな、って」
「望むところです」
 それなら仕方がない。それでなくても僕らは、これから大人の愛を知るべく実践訓練をしなくちゃならないんだから。

 不意に視線を感じて振り向くと、リビングの入口のところで、人影がさっとひっこむのがみえた。
 ……が、白いリボンとか、半ズボンの裾とか、取り落としたらしいワンカップのフタとか、タコの足とか色々はみ出している。バレバレだ。
「ミク」
「どうしたの」
「さっそくだけど、デートしようか」
「え?」
 ミクの返答を待たずに僕は、彼女を腕で抱え上げた。お姫様だっこの状態で、走り出す。
「どこ行くの?」
「とりあえず、邪魔者のいないところ?」
「……庭とか?」
「庭か……。雪だるまでも作るかぁ」
 初デートが庭で雪だるまってのも、どうかと思うけれど。
 ロマンスには程遠くても、多分これくらいがちょうどいい関係なんだ。
 後ろから覗き魔たちが騒ぐ声を聞きながら、僕らは白銀に染まっているはずの庭に飛び出した。
posted by さわのじ。 at 13:23| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説  | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とっても (・∀・)ニヤニヤしちゃいました♥
ありがとうございます
Posted by くま at 2013年01月17日 01:53
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